民法上の扶養義務が一般的にあるのは、夫婦、直系血族、兄弟姉妹のみです。


上記以外の3親等内の親族が扶養義務を負うのは特別な事情がある場合のみで、家庭裁判所の審判が必要。極めて限定的な場合に限られます。


その根拠などを詳しくみていきましょう。




民法


民法第730条(親族間のたすけ合い)


直系血族及び同居の親族は、互いに扶たすけ合わなければならない。

【解説】
親族間の相互扶助を定めた条文であるが、夫婦間の同居、協力及び扶助の義務を定めた民法第752条や扶養義務者を定めた民法第877条などの別の条文があるため、無意味な条文と考えられている。


民法第752条(同居、協力及び扶助の義務)


夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。


民法第877条(扶養義務者)


  1. 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
  2. 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
  3. 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

    【解説】
  • 兄弟姉妹とは,父母の双方を共通にする全血兄弟姉妹か,父母の一方のみを共通にする半血兄弟姉妹かを問わない。
  • 3親等内の親族の扶養義務を定めるが、おじおば、甥姪、その各配偶者にまで扶養義務が生ずることになることから、特別の事情と家庭裁判所の審判を必要とした。


絶対的扶養義務者?と相対的扶養義務者?


絶対的扶養義務者


民法上の扶養義務が一般的にあるのは、夫婦、直系血族、兄弟姉妹の範囲で、これを絶対的扶養義務者と呼ばれますが、絶対的な扶養義務ではないのです。


相対的扶養義務者


それ以外の3親等内の親族を相対的扶養義務者と呼びます。扶養義務を負うのは、特別な事情があり、家庭裁判所が審判で定めた場合だけで例外的なケースです。相対的扶養義務者と呼ばれますが、例外的扶養義務と呼ぶほうが内容に合っています。


生活保持義務と生活扶助義務


夫婦、直系血族、兄弟姉妹の扶養義務は、生活保持義務と生活扶助義務に分けて考えるのが民法学の通説です。過去の判例でも、その考え方が確立しています。生活保護の実施要領や『生活保護手帳 別冊問答集』も、同じ考え方に立っています。


生活保持義務


生活保持義務は、夫婦間と、未成熟の子に対する親からの扶養が対象。自分と同程度の水準の生活をできるようにする義務があるとされています。強い義務だが、自分の健康で文化的な最低限度の生活に必要な費用(生活保護基準額)を削ってまで援助する必要はないという解釈が一般的です。


生活扶助義務


生活扶助義務は、成熟した子と親の関係、祖父母や孫との関係、兄弟姉妹の関係が対象。自分が健康で文化的な最低限度の生活水準を超えて、社会的地位にふさわしい生活を維持したうえで、なお経済的余力があるときに援助する義務があるとされている。余裕があったら援助するべきという弱い義務。


民法上の扶養義務は基本的には当事者間の問題


生活に困った人は、扶養義務者に対して扶養を請求する権利を持ち、話し合いで決まらないときは家庭裁判所に申し立てて扶養の実行を求めることができますが、扶養を請求しないのは自由。扶養義務を果たさないからといって、公的に責められることはなく、刑事罰もありません


生活保護


扶養は生活保護に優先するが要件ではない


生活保護法には「補足性の原理」があり、民法にもとづく扶養は、保護に優先します。優先するだけで保護の要件とは違います。

扶養は自分の努力だけで得られるものではないので、活用すべき「あらゆるもの」には含まれないというのが厚労省の現在の見解です。


生活保護法第77条


  1. 被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる
  2. 前項の場合において、扶養義務者の負担すべき額について、保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、保護の実施機関の申立により家庭裁判所が、これを定める。

税金のように強制徴収はできず、「生活保持義務」の場合を除いて、強硬手段を取りうるのは、相手が明らかに富裕で、本人との関係も悪くない場合です。


改正生活保護法について/扶養義務者への扶養照会



親子や兄弟姉妹等、一般的に扶養可能性が高い者に対して重点的に行うことが多く、3親等内の親族すべてに一律行っているわけではない。

生活保護法における扶養義務の範囲は、民法上の規定における扶養義務の範囲に等しい。

  1. 夫婦間及び親の未成熟の子に対する関係
  2. 直系血族及び兄弟姉妹
  3. 3親等内の親族(おじ、おば、甥、姪など)のうち特別な事情がある者
    過去にこの要保護者又はその世帯に属する人から扶養を受けるなど


生活保護法第4条第2項の扶養義務者の扶養の可否を確認するために使用する扶養照会書等について(平成 25 年 11 月8日付事務連絡)



扶養の照会は現在でも行っているが、この通知及び報告徴収の対象となり得るのは、福祉事務所が家庭裁判所の審判等を経た費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる場合に限る。下記等を保護の実施機関が総合的に勘案し、適当と判断される場合が該当する。

  1. 定期的に会っているなど交際状況が良好であること
  2. 扶養義務者の勤務先等から当該生活保護受給者にかかる扶養手当を受け、さらに税法上の扶養控除を受けていること
  3. 高額な収入を得ているなど、十分な資力があることが明らかであること

つまり、音信不通だったり、実際に扶養していなかったり、生活に相当な余力がない限りは、扶養照会は適当ではない...はず...。


精神保健福祉法における医療保護入院の扶養義務者




医療保護入院の歴史


  • 1950年 精神病者監護法及び精神病院法が廃止。精神衛生法が制定。保護義務者の制度。保護義務者による同意入院制度。
  • 1988年 精神保健法が施行。任意入院制度。保護義務者による同意入院を医療保護入院と改名。指定医の判定を医療保護入院の要件とした。
  • 2013年 精神保健福祉法改正。保護者制度が廃止。家族等同意に。


医療保護入院の要件(精神保健福祉法第33条1項)


医療保護入院は、本人の同意がなくても以下の場合に行われる。
  • 精神科病院の管理者が
  • 家族等のうち、いずれかの者の同意があり
  • 精神保健指定医1名の診察の結果、精神障害者であり、かつ
  • 医療及び保護の入院の必要があり
  • 任意入院が行われる状態にないと判定された


家族等とは(精神保健福祉法33条2項)


家族等とは、医療保護入院の対象となる方の
  1. 配偶者
  2. 親権を行う者
  3. 扶養義務者(民法の規定により、直系血族、兄弟姉妹及び家庭裁判所に選任された3親等以内の親族)
  4. 後見人又は保佐人
ただし以下の者は除かれる
  1. 行方の知れない者
  2. 当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
  3. 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、成年被後見人又は被保佐人
  4. 未成年者