介護が必要になっても、ずっと住みなれた自宅で暮らしたい。でも途中であきらめて施設入所する方が多いのも事実です。
 
理由は一人の不安、近所や子供達からの心配の声など漠然とした在宅介護の不安が大きいのではないでしょうか。
 
介護は先が見えず、お金や精神的な不安が続きます。本人も、介護をしている家族も身体的にも精神的にも辛い思いをすることが多いです。
 
難しい問題ですが、家族が介護し続けるのは今の日本の情勢では難しいことが多いです。家族に頼る在宅介護は美しくみえてしまうこともありますが、無理が続いて本人にも家族にもいい結果にならないことが多いこともあります。

高齢者夫婦だけでも、一人でも安心して自宅で最後まで生活できないか。お金が少なくても、一人暮らしでも、最後まで自宅で介護を受けて暮らせるちょっとしたコツや制度がある。微力にしかならないかもしれませんが、少しでも役に立てたなら嬉しいです。

 

在宅介護のキーワード


介護保険がスタートした当初から今日まで言われていたこと

  • これからますます単身で独居の高齢の方は増えます。
  • こどもは減り、人口は減り、高齢の方の割合は相対的に増えます。
  • 今後の日本は終身雇用ではないので働き方は安定しません。
  • 介護を担う側の子ども達は仕事や子育てで精一杯です。
  • 介護が必要になったら子どもと同居して、家族が介護していくという従来の方法は難しくなっています。
  • かと言って、医療も介護も今後ますます厳しく(予算・人材)なってきています。

いざという時に介護保険を使うだけでは自宅で生活し続けることが難しい状況にあります。家族に頼ることも難しく、必要最低限の支援だけをお願いできるかどうかというのが現実的です。

それでは、どうしたらいいのでしょうか。


介護が必要になっても自宅で暮らし続ける【キーワード3選】


長年、ケアマネや包括支援センターの業務をしていて感じた『自宅で暮らしていくキーワード』は大きく3つに絞れます。

  1. お金がないことを証明しておく。
  2. 地域へライフシフト、ネットワークを作っておく。
  3. 自分の意思を記しておく。


自宅で介護を受けながら生活しているケース例


3つのキーワードを説明する前に、在宅で介護を受けながら過ごしている実例を紹介しておきます。

一人暮らしでも、医療行為が必要になっても、物忘れはあるけど徘徊などの周辺症状はない方は、自宅で介護を受けながら生活することができています。


身寄りがない一人暮らしの要介護の方


食事やトイレ、入浴が自分でできない。物忘れはなく判断は自分でできる。子どもは遠方に住んでいて書類手続きはできるけど、日頃の介護はできず帰省も年に数回程度の方。

  • ヘルパーで買物代行(週1回)。朝食と夕食の調理支援。食事、排泄の介助。
  • デイサービスで入浴介助。看護師による体調チェック。
  • 福祉用具貸与でベッドや車椅子、歩行器をレンタル。
  • 住宅改修で手すりを取り付け。
  • 地域の宅配弁当を利用。


医療行為が必要になってきた方


肺がん末期で自宅で酸素を吸っている。痛みも出てきてオピオイド(医療用麻薬)などを使っている方。

  • 通院が難しくなったので、病院のMSWと連携して訪問診療に切り替え。
  • 訪問看護で在宅酸素の管理、痛みのコントロールや体調チェック。
  • 主治医と薬局が連携して居宅療養管理指導でオピオイドコントロール。
  • デイサービスに行っての入浴が体力的に難しくなったので訪問入浴を利用。
  • ヘルパーに適宜訪問してもらい、食事や排泄の介助。
  • 市販のネットワークカメラを利用して随時、家族が本人の様子をスマホで確認できるように設定。


年金が月5万円しかなく介護費用が支払えない


年金が少なく、今まではなんとかやりくりできていたけど、介護が必要になり、介護費用を賄えなくなった。物忘れも少しあるが、自分のことは自分で決めていける方。

  • 包括支援センター、社協の日常生活自立支援事業、生活困窮課、生活保護課と相談。
  • 貯蓄がなく、遠方に住む家族も扶養する余裕がないことから、生活保護を申請。
  • 自宅は売却せずそのまま居住しながら生活保護受給決定。
  • 生活保護を支給することで介護扶助の適応になり介護費用の負担0円。
  • 通院や入院費用は、医療扶助の適応で費用負担0円。
  • 物忘れが少しずつ進んできたため、本人の意向に沿って日常生活自立支援事業で金銭管理。管理費用は生活保護のため無料。


お金がないことを証明しておく


医療や介護の費用に備えておくには貯金はもちろん大切ですが、貯金することも難しい年金収入しかない場合、お金がないことをしっかり証明しておくことが大切です。


住民税非課税を証明しておく


一人暮らしの場合、150万円/年ぐらいまでの年金収入であれば住民税非課税世帯になります。夫婦2人世帯の場合、200万円/年ぐらいまでの年金収入で住民税非課税世帯になります。詳しくは、こちらの記事も見てください。

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住民税非課税世帯だと医療費、介護費が減額される


住民税非課税世帯になると住民税の支払いがなくなります。年金から天引きされる医療保険料、介護保険料が減額されます。一番大きいのが、実際に支払う医療費や介護費に上限額が設定されて窓口負担が減ります

  • 医療関係:医療保険料の減額、高額療養費の上限軽減、限度額適用認定証で窓口負担軽減。
  • 介護関係:介護保険料の減額、高額介護サービス費の上限軽減、負担限度額の上限軽減、施設入所費やショートステイ費(介護費・食費)の軽減。

詳しくは、こちらの動画も見てください。







無理に同居しない・同居しても世帯を分けておく


子どもが働いているとほぼ課税世帯になりますので、同居すると自分も課税世帯の扱いになります。子どもと同居しているだけで、年金は少ないのに課税世帯、つまりお金がある世帯になります。

同居する場合や同居している場合は、世帯を分けておく(世帯分離)ことで非課税世帯にすることができます。

世帯分離と聞くと「戸籍を分けるのか!」と怒られそうですが戸籍はそのままです。住民基本台帳にもとづく手続きだけの話です。


世帯分離のポイント


住民票のある役場へ申請します。本人以外に代理人でも可能です。代理人の場合は委任状が必要です。委任状は役場に置いてあります。

ポイントは、必要のないことは言わないです。

「生計を別にすることになった」とだけ言いましょう。「軽減のため」とは絶対に言わないようにしましょう。

必要なものは、住民異動届、本人確認ができる書類(顔写真あるのは一つ、それ以外は2つ)です。課税世帯から非課税世帯になる場合は一緒に、医療保険や介護保険の限度額証などの申請をしておきましょう。


住民税の申告をしておく


非課税証明書


所得が少ない方は所得税の確定申告はしなくてもいいですが、住民税の申告はしておいた方がいいです。役場が『所得が少ない方』ということが分かり、非課税証明書を発行できるからです。


住民税の申告


住民税は住民票のある役場で申告書を提出します。申告書は都道府県ごとに、『市民税・県民税申告書』、『市民税・都民税申告書』、『市民税・府民税申告書』と呼び名は異なります。

住民税の申告期間は2月1日~3月15日です。前年の所得について、この期間中に申告しておきましょう。

必要なものは、顔写真付きの証明書1つ(なければ顔写真なしの証明書を2つ)、印鑑があれば大丈夫です。


生活保護を申請する


自分の収入が生活保護を申請する基準にあるかどうか、生活保護の自動計算サイト『生活保護.net』で簡単に調べられます。

年金等の収入が少なくて困窮している場合は生活保護の申請を検討しましょう。生活保護の申請については以下の記事も参考にして下さい。

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生活保護を受けるためのポイント【介護と医療現場で役立つ】

『生活保護を受けるのは人生の敗北者』『怠け者』『国に厄介になってるダメな奴』といった差別的な考えに陥らないことが一番大切です。自分は決してダメな奴と思わないこと。恥ずかしいと思わないこと。生活保護は国民の権利なので当然のことと強い意思を持つことです。


介護が必要になった場合に備えておくネットワーク


人付き合いを地域へシフトしておく


介護が必要になった場合、ご近所さん、地域との関係が大切になってきます。子供ではなく地域住民や介護の公的機関、かかりつけ医などとつながっておくことが大切です。

特に『地域包括支援センター』は、地域の全ての高齢者の相談窓口になっています。相談受付だけでなく、地域住民を巻き込んだ様々な介護予防事業も実施しています。

体調が悪くなくても挨拶で事務所に来てくれる方も沢山います。介護予防事業に参加しておくことで自分の健康維持になりますし、自分が住んでいる地域を作っていく活動に参加できます。近所と顔の見える関係になります。


地域包括支援センター


地域包括支援センター = 地域のすべての高齢者の相談窓口
居宅介護支援事業所 = 要介護認定を受けている高齢者の相談窓口


地域包括支援センターの役割


  • 高齢者の生活困りごとの総合相談窓口
  • 高齢者の権利を守る(弁護士、司法書士、警察との連携)
  • ケアマネとの連携
  • 要支援者のケアプラン作成


自分の意思を記しておく(物忘れに備えておく)


高齢になっても在宅で一人で暮らしていく際に一番難しくなってくるのが認知症です。認知症になっても出来る限り自宅で過ごせるように事前に備えておくことが大切です。


物忘れを予防する


まずは日頃からの認知症予防が1番大切です。YouTubeの動画にもまとめていますので参考にして下さい。



認知症予防2つのポイント


  1. 認知症になりにくい生活習慣(食事、運動、人付き合い、趣味活動、睡眠)
  2. 認知症の初期段階で落ちる3つの能力を鍛える(エピソード記憶、注意分割機能、計画力)

包括支援センターなどが主催している認知症予防活動、オレンジカフェの活動や地域活動に参加したり、コグニサイズなどの運動を習慣にしましょう。


認知症の初期段階と診断された場合


MCIと言われる軽度認知障害の段階であれば、認知症に進行しないように予防していきましょう。それでも予防には限界があります。認知症と診断されたらどうしたらいいでしょうか。


日常生活自立支援事業


もの忘れが進んで判断能力があやしくなってきた方に対して、契約に基づいて、日常の金銭管理などをしてくれます。県の事業を市町の社協などが委託して運営していますので安心です。

預金の引き出し、預金の預け入れの手続などの日常生活費を管理してくれます。銀行に公的に手続きして通帳も社協で管理してくれます。管理費用はかかりますが、生活保護になると減免されます。


エンディングノートに自分の意向を書いておく


認知症が進行して判断ができなくなったときのために、自分の意向を綴っておくことはとても大事で大切なことです。

エンディングノートと言っても、亡くなる用意ということではなくて残された家族や支援者が困らないように自分の大切なことを綴っておくものです。

このエンディングノートの記事も参考にしてみてください。

あわせて読みたい

【終活】想いを遺す エンディングノートの書き方

エンディングノートは、単に連絡先等を記録するだけでなく、人生を振り返り、これからの生き方を考えるきっかけにもなります。変な言い回しになりますが、生きている時間をよりよく過ごすためにも一度、終わりを見据えてみませんか。人生が充実してくるかもしれません。

任意後見制度や民間の身元保証はお金が必要になります。金銭的に苦しい場合は無理に事前に契約するのではなく、認知症が進行して判断能力が定価した場合は成年後見制度を利用するのも一つです。生活保護受給者や住民税非課税世帯には助成制度がありますので必要な費用は減免や免除されます。


まとめ


介護は先が見えず、お金や精神的な不安が続きます。本人も、介護をしている家族も身体的にも精神的にも辛い思いをすることが多いです。

難しい問題ですが、家族が親を介護し続けるのは今の日本の社会情勢では難しいと言わざるを得ません。家族に頼る在宅介護は良い面も沢山ありますが、無理が続いて本人にも家族にも良い結果にならないことも多いです。

高齢者夫婦だけでも、一人でも安心して自宅で最後まで生活できないか。お金が少なくても、一人暮らしでも、最後まで自宅で介護を受けて暮らせるちょっとしたコツや制度がある。微力にしかならないかもしれませんが、少しでも役に立てたなら嬉しいです。